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立山・剱岳・奥大日岳の山旅
日 時

メンバー
平成21年8月2日(日)〜7日(金)

斉藤宗 斉藤滋 
 別山・剣岳を望む
 山好きの人達にとって話題の映画 ”剣岳・点の記 ”を観た数日後 相棒Mが「今年の夏は 久し振りに剣岳に行くぞ」と言う。 高所恐怖症・岩登り苦手の私にとって まさかの宣告だ。(私はまだ一度も登っていない)
 出発は7月20日過ぎと言われたが 幸か不幸か梅雨が一向に明けず 不安と少しの期待が繰り返される日々となる。 この間 陶ガ岳で 少しだが岩トレをする。
 8月2日 この日も北陸地方の天気は思わしくなく 出発を諦め東鳳翩山に登る。 ところが帰宅してネットで天気予報を見ていたMが 「よし!今から行くぞ!」と突然GOサインを出す。 鳳翩山から帰宅して2時間後の なんとも慌ただしい山旅の始まりである。
 8月2日(日)  17時30分 自宅 〜 中国道上月SA(車中泊)
 8月3日(月)  5時30分 上月SA 〜 名神道 〜 北陸道 〜 立山駅 〜 室堂 〜 15時15分 一ノ越山荘(泊)     
 2日がかりで下り立った室堂は私にとって初めての地。予想した通り登山者より観光客がはるかに多い。 若い頃 後立山連峰を縦走した折 何度か眺めた立山が すぐ目の前に拡がっているのだが  少しでも早くこの人込みから逃れたくて すぐに歩き始める。
 計画では まず剣岳に登る予定であったが 出発の時間がずれたため予定を変更して 先に立山に登ることにする。
 室堂から一ノ越山荘までは ひと登り。わずか45分の歩きで 静かな山の世界に入る。 今日 電話で予約したにもかかわらず 個室となり のんびりと休むことができる。 しかし 夕食時に見たテレビの天気予報は芳しくなく なんとなく気分が冴えないまま 床につく。
 8月4日(火)  5時 一ノ越山荘 〜 雄山 〜 大汝 〜 富士の折立 〜 真砂岳 〜 別山北峰 〜 別山 〜 剣御前小屋 〜  剣御前 〜 剣御前小屋 〜 13時15分 剣山荘(泊)   
 少しでも天気のいい間に歩きたいと 朝食はお弁当にしてもらい5時に小屋を出発する。前日の室堂から小屋までの 緩やかな登りとはうって代わり すぐに瓦礫の急登となる。昨夜はぐっすり眠れたので みるみる内に高度を稼ぎ 素晴らしい展望が拡がって来る。 西から薬師岳・黒部五郎・笠ガ岳・槍・・・。
 一ノ越山荘を後にして
 
 心配した天気も今日一日は持てそうなので 沈んでいた気分もだんだん上向いてくる。
 雄山への登り
 朝早いので ガイドブックで見た雄山山頂の人込みも無く 改めてゆっくりと展望を楽しむことが出来る。
 雄山山頂
 次に大汝の山頂を踏み 休憩所前で朝食を摂っていると 前夜時間切れでこの休憩所に頼んで 泊めてもらったという人が 話しかけてきて「2食付きで助かった」との事。休憩所は工事中のようだ。
 それにしても 立山三山縦走中にわずか数パーティーしか出会わない。今日は時間があるので 岩の林立する富士の折立てのピークも踏む。
 ここからの縦走路はおだやかになり、内蔵助カールが右にゆるく落ちている。  何も無い真砂岳から別山北峰に向かう辺りでようやく 賑やかな人声を耳にし始める。
 立山三山を振り返って
 剣岳を展望する絶好のポイント別山北峰では 幾人かの人が 眼前に迫る剣岳の雄姿に圧倒されながらも さかんにシャッターを切っている。
 私は明日辿るルートを探しながら その急峻さを目の当たりにし 次第につのる不安をMに気づかれないか・・・と努めて平静を装う。 しかし 自分でも暗い顔になっていくのが分かる。
 別山北峰からの剣岳
 そんな 私を救ってくれたのが 硯ガ池。花の少ないサクバツとした瓦礫の縦走路を来た登山者を労わるように 雪解けの冷たい水を湛えて 青空を映している。 頑張れ!と励まされたようで 少し勇気が湧いてくる。
 硯ガ池
 雷鳥の親子
 剣御前小屋には10時半に到着。冷たい水が飲みたくて400円也で購入するもあまり冷たくなく 期待外れ。 しかし嬉しいことが。 小屋の人に 明日の天気の予想を聞いてみると「 今日と同じぐらい 好いんじゃないですか・・・」とのこと。  やったぁ〜! 昨夜のテレビの予報では どうなることやらと心配でたまらなかったが 好かった!!
 今日の宿 剣山荘へは約1時間の道のり。時間がたっぷりあるので 剣御前への稜線コースを行く。
 ほとんどの登山者が トラバースコースか剣沢へのコースを行き この稜線コースに人影は無い。 代わりに チングルマ・ハクサンイチゲ・キンポウゲ・イワキキョウ・ハクサンフウロ・ヨツバシオガマ・・・と色とりどりの 高山の花々が満開で迎えてくれる。
 稜線コースにて
 もったいない。私達の他に誰もこのお花畑に居ないなんて。・・・がその訳が分かった。 剣御前の頂上先の縦走路に突然横たわった1枚の板切れ。  ”この先危険 通行止め ”地図に記載されているコースなのだが ここは警告に素直に従って無理は止めよう。
 時間がたっぷりあるので 花に囲まれて ゆっくりとお弁当を食べる。
 お花畑に囲まれて
 危険なコースに入ったとはうっかりしていたが 素晴らしいお花畑に出会え むしろ得をした気分で写真を撮りまくる。 剣御前小屋まで引き返し 改めてトラバースコースで剣山荘に向かう。
剣山荘への道 雪渓を渡る
 13時15分 ついに剣山荘着。小屋のテラスは剣岳に登り終えた笑顔の人 今から挑戦する人でいっぱいだ。
 小屋の背後に覆いかぶさるように聳える剣岳の前景を 間近に見てやっと決心する。もう行くしかない。
 雪崩で潰され 昨年再建されたという剣山荘は まだ木の香りが漂う真新しい気持ちのいい小屋だ。 シャワーを浴び さっぱりする。
 気になる夕方聞いた天気予報は 又も 明日は雨と言っているが その後の放送で 北陸地方が梅雨明けと知り もしかして今日までの幸運が明日も続くかも・・・と祈る。 横になっても緊張からか なかなか寝付かれない。隣のMは大いびき。
 8月5日(水)  4時20分 剣山荘 〜 剣岳 〜 剣山荘 〜 剣御前小屋 〜 16時 雷鳥沢ヒュッテ(泊)
 3時半。周りの人の動きで目覚める。すぐに顔を洗い身支度をする。前夜のうちにザックから出した余分な荷を小屋に置かせてもらう。 いよいよ本番だ。私にとってつい最近まで 登れそうにない山 眺める山だった剣岳に今から挑戦だ。幸運にも雨は降っていない。
 気を引き締め ヘッドランプの灯りの下 第一歩を踏み出す。先行者の灯りがチラホラ見える。
 剣岳を目指す
 やや明るくなった尾根に上がった所でヘッドランプを外し シュリンゲで簡易ハーネスを作る。 もう一本のシュリンゲとカラビナを  自身の確保にすぐに使えるよう身につける。  次々と現れる 鎖場の登り下り。 急なガレ場の登り。Mの指示通り無心に進む。本当にもうこうなったら進むしか道は無い。
 大岩上部のガラ場
 事前のガイドブックで 覚えたはずのポイントも どこがそうなのかまったく分からない。厳しい場所での Mの叱咤激励も 思うように体がついて行かず 「 そう簡単に出来ない!」と反論する。こんな所での夫婦喧嘩はかっこ悪い。 同じペースで励まし合いながら登っていた 岡山からのグループになだめられる。
平蔵の頭からの下り 登り下り 別ルート
 なおも夢中で進んで行くと 人だかりが。 此処だけは分かった。”カニのタテバイ ” 折りしも7〜8人の学生らしきグループが 私以上にシュリンゲ・カラビナを身にまとい ガチャガチャと音をたてながら 岩場を占領(?)している。2個づつ 環付きのカラビナで環のネジをいちいち締めたり 開けたりしているので遅々として進まない。 すでに10人以上の人が取り付きで待機中だが 学生達はお構いなく 自分達の安全な方法を貫き通している。 誰もうんざりした様子だが 口に出して咎める人はいない。
 カニのタテバイ
 30分位して ようやく待機部隊が登り始める。Mも取り付く。簡易ハーネスに繋げたシュリンゲの先のカラビナを鎖にかけ 私も続く。2〜3m登っては次の鎖にカラビナをすばやくかけかえ無我夢中でMを追いかける。途中からは私のカラビナをMが 架け替え時間を短縮する。 「 なるべく迷惑をかけないよう頑張りますので・・・」とすぐ後ろの人達に予め断っていたが タテバイを抜けた所で 「速かったじゃないですか。ご主人がどんどんリードされたから」と笑顔で声をかけられる。
 カニのタテバイを抜ける
 悪場を抜けた安堵感で 最後の登りは気がだれ 長く感じる。
 山頂は近い
 7時50分。疲れを感じながらもついに立った剣岳の山頂!! Mに握手し ひと言「有難う」と礼を言う。嬉しい笑顔のはずが なぜか涙顔に。胸の奥から何かがつきあげてくる。
 剣岳山頂
 記念の写真を撮り 弁当を開く。登って来られた女の方から「さぞ 美味しいお弁当でしょうね」と声がかかるが なかなか喉を通らない。食いしん坊の私だが 下りの長い道のりを思うと いつもの食欲が湧いてこない。  再び 気合を入れて下山開始。すぐに ”カニのヨコバイ ”だ。噂通り核心部の最初の一歩に苦戦するがなんとかクリア。
 カニのヨコバイ下部
 平蔵の頭・前剣・目まぐるしく現れる下りの鎖場は ほとんどMにシュリンゲで確保され 考える暇もなく通り過ぎる。
 平蔵の頭への登り
 順番待ちが多かったとはいえ 7時間以上かけ ようやく昼前に剣山荘に無事帰着。小屋の裏で 改めてMに握手し礼を言う。  やっと終わった!!
 笑顔の前に又も 胸がいっぱいに・・・。そして心から安堵する。
 小屋のテラスで冷たいビールを口にし 自分にとって難関の山を制覇(引っ張り上げてもらったのだが)できた喜びが ようやく ジワジワと湧いて来る。  ビールの酔いもあるのかMは 「帰ったら離婚です。」と息巻いて 岡山のグループに言っている。 しかし「それは 奥さんのセリフです。」と言われ 以外と素直に答える。「そうですね。」
 剣山荘に別れを告げる
 思い出の剣山荘に別れを告げ 昨日のトラバース道を疲れを感じながらも 気分は上々で剣御前小屋まで戻る。
 ひと休みして今夜の宿 雷鳥沢ヒュッテを目指す。急坂を勢い良く下って 膝を痛めたくないし もはや速く下る元気も無い。 疲れた足には長い難所になり 予想タイム1時間のところを なんと倍の時間を要す。
 ようやく着いた ヒュッテの温泉風呂で汗を流し 久しぶりに着替えも出来て気分爽快。 夕食の生ビールが一段と美味しい!!
 8月6日(木) 6時 雷鳥沢ヒュッテ 〜 奥大日岳 〜 奥大日最高地点 〜 雷鳥沢ヒュッテ 〜 室堂 〜 立山駅 〜 北陸道尼御前SA(車中泊)
 山旅最後の日 初めてヒュッテで落ち着いて朝食を摂る。無事剣岳に登れたので 今日目指す奥大日岳はゆっくりと楽しみたい。
 計画では 大日小屋に宿泊し 大日三山縦走の予定であったが 出発日時が遅れたこと 帰りの道路の渋滞予想 それに今度こそ 天気が崩れそうなので 急遽奥大日岳へのピストンに変更する。
 2人分の洗濯物や山旅のゴミなど 一部荷物をヒュッテに預け出発。 まず一面のお花畑の中の木道を行く。
 木道を行く
 何度見ても 見飽きない可憐な花々が咲き競い 見とれてなかなか前に進めない。Mも「今日はクールダウンだ」と急がない 新室堂乗越からの稜線を行くコースは 立山・弥陀ヶ原・称名川の源流・剣岳を見渡せ 写真をいくら撮っても限が無い。
 遠くに大日山荘が見える
 剣岳が 湧き上がる雲の合間に見え隠れし 思わず足を止め見入ってしまう。 昨日 あのギザギザの 人を寄せ付けそうに無い所を登ったんだと 改めて思う。  Iさん・M先生・Sさん達が 先月登られた早月尾根も手に取るように見える。 あの長い長い尾根を 悪天の中事故も無く登られたとは・・・見ただけで思わずうなってしまう。 昨日の賑やかなコースとは違って 今日は人影を2人しか見なかったが 奥大日岳の山頂では10人近くの登山者が集まり  情報交換で賑やかとなる。
 奥大日山頂は近い
 奥大日岳の山頂から 歩けば2時間はかかるはずの大日小屋が 以外に近くに見え行ってみたくなる。 あの小屋をパスして 一気に下山という人もいて 近い将来私もぜひ縦走してみたいと思う。 山頂のお喋りは続き 本当に限がないので下山を開始する。  奥大日の最高点に立ち寄り ここからの剣岳をしっかりと目に焼きつけ 往路をたどる。  今年の夏の天候は不順なのに このひと時の晴れ間を予測(?)したMに感謝!(運が良かっただけかも)
 奥大日岳最高地点より剣岳を望む
 雷鳥沢ヒュッテに帰り着きテラスでお弁当を食べる。安心したのか昨日までとは違い 内容は同じ鮭と佃煮のお弁当が最高に美味しい。 荷造りを整え室堂に向かう。
 8月7日(金) 5時40分 尼御前SA 〜 北陸道(敦賀)〜 一般道 〜 舞鶴若狭道(小浜西)〜 中国道 〜 16時30分 帰宇
 Mに剣岳と宣告(?)されて 約1ヶ月。 自分の実力に不安を抱えながらも これが私にとって きっと最後のチャンスと言い聞かせた。 陶ガ岳での にわかトレーニングに付き合ってくださった 山の友達 有難う。    今まで 眺めていただけの剣岳。 いつか どこかの山から眺めることが出来たなら きっと今までとは違う剣岳に見えるだろう。  有難う!!
 チングルマ
( 文・斉藤滋   写真・斉藤宗 斉藤滋 )
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