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北鎌尾根~槍ヶ岳(後編)
日 時  2015年9月22日~24日
山 域  槍ヶ岳(長野県・岐阜県)
天 候  9月22日~24日(晴れ)
メンバー  加藤CL、石井SL、浅原
ルート  北鎌尾根末端~P2~P6~北鎌沢のコル~天狗の腰掛(テント泊)~独標~北鎌平
~槍ヶ岳山頂~飛騨乗越~槍平(テント泊)~新穂高温泉駅
行 程  22日:
起床・朝食(3:30)~出発(5:10)~P2(8:00)~P3(10:15)~P4(10:40)
~北鎌沢のコル(14:30)~天狗の腰掛・テント泊(16:00)

 23日:
起床・朝食(3:30)~出発(6:00)~天狗の腰掛(6:30)~独標山頂(7:30)
~北鎌平(12:00)~槍ヶ岳山頂(14:00)~下山開始(15:30)~槍平・テント泊(18:00)

 24日:
起床・朝食(6:00)~出発(7:00)~新穂高温泉駅(11:00)
 前日のババ平でのテント泊と打って変わって沢の音の以外は何も聞こえなかったが、夜中2時過ぎ頃から気温がぐっと下がって急に冷え込み、目が覚める。
 加藤が手際よく朝食を作り、温かい食事をとって冷えた体を温める。
 準備を済ませると、北鎌尾根末端からの踏破に向けて歩みをすすめる。しかしすぐにその出鼻をくじくかのような急登が待ち構える。
 滑落に注意しながら木の根を頼りに一歩一歩慎重に登る。
 ところどころ浮石や腐った木の根などもあり決して油断はできない。また、この先は水場もなく、必要な水は全て担ぎあげなくてはならない。早速、北鎌尾根の厳しさを痛感する。
急登を登る
 P2を登ると次はガレと岩場のP3が待ち構える。
 P2と打って変わって視界も開け、辺りの山々や昨日歩いた天上沢を見渡すことができた。
 P3~4を通過し、P5へは懸垂下降で降りるか藪を下り不安定なザレ場をトラバースするしかない。懸垂下降の支点も打ってあるが、天井沢側の下部のトラバースのほうが安全と判断し、一旦藪漕ぎで下り、ザレ場を進む。
 僅かな踏み跡が残っているが足場が悪く、一歩踏み出すごとにザラザラと崩れていくため、ここで登攀具を装着し、一人ずつ慎重に登る。
 勾配も急なため四つん這いになって進むが、手がかりも少なく掴んだらすぐに抜けてしまいそうな草ばかりのため、一息つく時間もない。
 最後は灌木を掴んでよじ登る。ひやっとすることが何度もあったが、北鎌尾根で一番の核心を5・6のコルへ抜ける。
 P6へは千丈沢側が崖になったザレ場。直前のザレ場での恐怖心から、ザイルを出してもらう。
 ザイルを出してもらうことで安心して進むことができたが、いざ登り始めるとザイルの必要はないほど簡単に通過することができた。
ザイルを使って登る
 P5~6を通過した後も北鎌沢のコルまでは浮石の多い岩場を下る等、気が抜けない難所が続く。
 北鎌沢のコルに着くとちょうど2パーティがテントを張っており、いずれも北鎌沢に沿って上がってきたとのこと。
 自分達のように北鎌尾根の末端から取り付くような登山者は少なく、彼らのように北鎌沢沿いに北鎌尾根に取り付き、槍の穂先を目指す登山者が多いようであり、実際此処から先はそれまでと打って変わって踏み跡もしっかり残っていた。
 北鎌沢のコルで既に14時半を回っており、そろそろこの日の幕営地を見つけなくてはならないが、天狗の腰掛を過ぎるとその先はガレ場が続き、地図では北鎌平まではテン場がなさそうである。
 少しでも多く距離を稼いで、翌日少しでも早く槍の穂先に着くため、石井と浅原でテン場を探しに先を急ぐ。テントの張れそうな場所は何箇所かあったが、結局天狗の腰掛を下ったところでテントを設営することにした。
 目の前には雲をまとった独標が佇んでおり、先に天狗の腰掛にテントを張ったパーティがそれを眺めながら夕食の準備にとりかかっていた。
 自分達も加藤が到着すると早速夕食の準備にとりかかる。使える水が限られてきたため、節水に心がける。
 標高も2700メートルまで上がり、この夜は風を遮るものは何もなく特に冷え込んだ。
 しかしいよいよ明日は独標を越え、念願の槍の穂先に登頂するのだ。少しでも体力を回復しておくに越したことはないため、眠れなくてもじっと目を閉じて夜が明けるのを待つ。
ガスった独標とテント
 寝ていたのか起きていたのかはっきりしない一夜が過ぎ、この日も雲一つない朝を迎える。
 朝食を終え外に出ると、日の出間近で白みがかった空が広がる。
 天狗の腰掛に上がると、そこにテントを張っていたパーティがいそいそと出発の準備をしていた。間もなく日が昇り始め、独標がモルゲンロートで全体を赤く染め上げる。その光景を見逃すまいと瞬きも忘れて見入っていた。
 木々が紅葉していたこともあり、空の青と山の赤がとても対照的に映しだされた。まるで今回の山行を無事やり遂げたような感動をおぼえた。
 視線をずらすと遠くには富士山や白峰三山、八ヶ岳などの名峰が雲海から頭を覗かしていた。持っていたカメラではその絶景を満足に写せないため、しっかりと自分の目に焼き付ける。
独標のモルゲンロート
 その後再度気持ちを引き締め、独標を目指す。
 既に数パーティが先を進んでいた。殆どが独標を千丈沢側に巻くルートを進んでおり、自分達も同様の巻道を選ぶ。
 巻道は遠くから見ると本当に人が歩けるのかと思うようなガレ場であったが、近づくに連れて踏み跡もはっきりと目視できた。千丈沢側は断崖絶壁のため滑落に注意して、前後の距離を十分に開けて慎重に進む。
 独標は、槍を眺めるのに最適な展望台、ここでしばし槍の勇姿に見入る。
 少し視線をずらせば穂高連峰も顔を覗かす。
 東鎌尾根と西鎌尾根が左右に広がり、天に突き上げる槍ヶ岳の惚れ惚れするような山容に圧倒される。早く槍の穂先に立ちたい。その気持が背中を押し、再び歩を進める。
独標から望む槍ヶ岳
 独標を下ると浮石だらけのガレ場のアップダウンが続く。
 ここでは陶ヶ岳で苦戦したクライムダウンのおかげで難なく抜けることができた。頭を使うよりも先に体がスイスイ動き、先を行く2人に続くことができた。
 今回はこの山行のためのトレーニングを何度も繰り返してきたおかげで、こうして現場で活きてくるということを何度も実感することができた。今後もこうした鍛錬を繰り返していきたい。
ヤセ尾根を進む
 難所に続く難所を越えようやく北鎌平にたどり着く。
 ここまでくると槍の穂先は見上げるほどの大きさになり、またそれに比例して、自分は無事に最後まで登りきれるのだろうかという不安が大きくなる。
 日も高くなり、日向を歩くとすぐに暑さで体力が奪われる。
 槍の穂先の手前の日陰で最後の休憩を少し長めに取る。天気が良すぎるとはいえ、ひんやりした場所に少し腰を下ろすとすぐに体中の熱が奪われる。やはり寒さには弱いようで、近くを歩いたりして体を動かす。
 槍の穂先への最終アタックは、天上沢側を巻き気味に登っていく。
 東壁左のルンゼ状の岩溝が立ちはだかったところでこの日最初で最後のザイルを出す。
 先頭の石井が登っている間ビレイヤーの加藤から座って少しでも体力を温存するよう諌められるが、座るとすぐに体中が冷えるし、不安で落ち着かない。
 登り始めると早く穂先に立ちたいとはやる気持ちを抑えながら慎重に登る。
 少し進むとすぐに石井がいる場所にたどり着く。また近くから人の声がするため先を進むと目の前には穂先に続く階段が現れ、多くの登山者がそこを登ったり下りたりしている。
 眼下に殺生ヒュッテを望む東鎌尾根の先端から、ついに槍の穂先に立つ。幸い山頂の祠には誰もおらず、そこからこれまで歩いてきた北鎌尾根の全景が見渡せた。ここを歩いてきたのかと思うとこれまでの苦労が全て報われたような気持ちになった。
山頂へ抜ける最後の上り。下に殺生ヒュッテを望む
山頂の祠
 山頂で記念撮影の後、槍ヶ岳山荘で少し長めの休憩を取る。久しぶりに十分な水分を取ることができた。
 この後は当初は大喰岳や南岳の稜線歩きを楽しんで新穂高温泉に下る予定であったが、時間的にも押してきているため、槍平小屋でテント泊した後、新穂高温泉に下山することとした。
 一番の目標を無事達成できたため気持ちは高揚していたが、疲れも出始め槍平小屋までの下りは思った以上に長く感じた。
 槍平小屋にたどり着く頃には既に日も沈み暗闇が広がりつつあった。後は新穂高温泉までひたすら下るだけで、この日の夜はこれまでの緊張感から一気に開放され、翌日は明るくなるまで十分な睡眠をとることができた。
 槍平小屋から新穂高温泉までの下り、そしてそこからまた家までの帰路はかなりの時間を要したが、今回の山行をやり遂げたという満足感、そして次はどういった山行を企てようかという挑戦心が沸々と湧いてきて不思議と疲れは感じなかった。
 今回の山行は長期に及び反省すべき点も多かったが、それ以上に得るものも多かった。ここで得た多くのことを次の山行に繋げられるよう、十分に咀嚼して糧としたい。
     
トラック図 「北鎌尾根~新穂高」
( 文:浅原/写真:石井、浅原/トラック図:浅原 )
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