HIKING RECORD 山行記録
HIKING RECORD
山行記録
八ヶ岳縦走記録(後編)
日付 | 2023/10/12 |
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天候 | 12日 曇り後晴れ 13日 晴れ |
メンバー | 斉藤(宗) 斉藤(滋) |
行程 | 10月12日 硫黄岳山荘(6:30)~ 横岳(7:20)~ 赤岳(11:05-11:40)~ 文三郎尾根 ~ 行者小屋(13:55-14:15)~赤岳鉱泉(15:25)泊 10月13日 赤岳鉱泉(6:45)~ 美濃戸(9:00-9:10)~ 美濃戸口(10:10-10:20)~ タクシー ~ 渋御殿湯(11:30) 帰路へ |
10月12日
入山3日目の朝を迎える。小屋のご厚意で5時半から朝食を摂る。昨日の受付時、朝食時間の希望を訊かれた。ほとんどの宿泊者が6時かららしいが「歩くペースが遅いので早発ちしたく出来れば5時半」とお願いした。但し我が家だけだと申し訳ないので・・・と伝えたが快くOKして頂けた。なるべく要望に応えようという配慮が感じられ有難かった。そういえば電話で宿泊の申し込みをした時の事だが「万が一悪天候や体調不良で小屋まで辿り着けそうにない場合、根石小屋(硫黄岳山荘と同系列)に泊めて頂けるでしょうか?」と訊いてみた。答えは「工事のため営業は9日迄ですが、いいですよ」だった。むろん余程の事がない限りそんな厚かましい事を頼みはしないが、高齢者にとって本当に有難く心強いお返事だった。応対されたのは下界におられるオーナーの奥様らしい。一言お礼を言いたかったが会えなくて残念! でも、スタッフさんが伝えてくださるそうだ。44年前も泊まっているが今のような立派な小屋ではなく、名前も《硫黄岳石室》だった。往時の《硫黄岳石室》の看板が今も小屋の通路に置いてある(この看板がかかった石室の写真が残っている。持参すれば良かったと帰宅後思う)さて、いよいよこの山行のハイライト横岳~赤岳縦走への一歩を踏み出す。予報では晴天の筈だが一面のガス、しかもかなりの強風だ。ヤッケを着込み毛糸の帽子を被って霜柱が立った斜面を登って行く。
稜線はさらに冷たく薄手の手袋の指先が痛い(Mのようにもっと厚手の手袋にすべきだった)鎖も鉄杭もしっかりと凍っていて所々エビの尻尾も延びている。3000m近い標高なので覚悟はしていたが、せめて風だけでも治まって欲しい。まぁ、この体重、吹き飛ばされる事はないだろう。念のために持参したチェーンスパイクの出番は無さそうだ。
慎重に(と言うよりぎこちなく)鎖や梯子を上り下りし(無我夢中でほとんど覚えていない)横岳主峰の奥の院を通過、ようやくなだらかな尾根となる。ホッとして見渡すと遠くに富士山、近くに赤岳と絵のような風景が広がっている。
いつまでものんびり歩きとはいかず核心部後半戦に突入、前半同様、相変わらずのアップダウン、鎖、梯子、ガレ場のトラバースと緊張の連続だ。44年前、女性2人パーティーは難なく通過(?)したと思うが、やはり寄る年波には勝てない。《ココヘリ》を呼ぶ事のないよう、慎重に行くしかない。
ようやく赤岳展望荘に辿り着く。一休憩しながら見上げる大迫力の赤岳、いったいどこを登って行くのだろう? なるほど下から見上げても老眼&乱視の目では見えなかった筈だ。登山道と言うより、泥交じりの岩の斜面を鎖を頼りに一直線に登って行く(私にはそう思えた)高所恐怖症だが、不思議と怖くない。
鎖と格闘する事しばし、ついに最大目標、赤岳山頂に登り着く。祝福?いつの間にかガスの合間に青空が覗いている。出だしのつまずきで一時はどうなる事か・・・と動転したが、何とか目標達成、Mと握手を交わす。13年前の冬山合宿で震えながらパンをかじった岩陰で弁当を開く。だが疲れてしまったのかМのようにパクパクとは食べられない。バックの中にはハム、ソーセージ、ちくわ等々・・・。つまみが減らないのは「お前が飲ませないから」とはMの弁だが、色々あって中々その気になれなかったんだろう。さぁ、そろそろステーキが待つ赤岳鉱泉へと下ろう。13年ぶりの文三郎尾根、あの時は強力なリーダーの元、安心して行動できた。果たして今日は?「足元をよー見て、ちゃんと確認してから下れ!」とモタモタを容赦なく叱るM(人前で)居合わせた人を待たせて悪いと思うのか?申し訳ないが、焦って怪我してしまうとそれこそ大変、大目に見て欲しい。
急で長~い階段から遥か下に見えていた行者小屋にようやく到着する。小屋のベンチに腰掛け大休憩、赤岳鉱泉には予定通り着きそうだ。ホッカリとして居合わせた単独行の女性と言葉を交わす。明日、本沢鉱泉の露天風呂に入るのが楽しみとの事、テレビで何回も見た有名な温泉だ。ほんの短いひと時だが、まるで昔からの知り合いのように喋り合う。別れの時、お互いが口にした「楽しかった」「有難う」の言葉、これだから山登りが止められない。
心身共に疲れはしたが赤岳鉱泉にゴールイン、Mは真っ先に缶ビールに飛びつく(受付のスタッフさんも笑)その気持、よく分かる。一昨日の大ミスを乗り越え、無事目的地に着いたのだ。余程嬉しかったのだろう。その上「お風呂が沸いています。どうぞ」と思いがけない言葉が。指差された視線の先には男湯と女湯の色違いの《ゆ》の暖簾が垂れている。最高のご褒美だ。おまけに「トイレが近いので出来れば近いお部屋に」とお願いしたが、なんと完全個室、宿泊者が少ないとはいえ本当に有難い。さぁ、何はともあれお風呂へと直行だ。女湯は貸し切り状態、木で出来た深めの1坪位のお風呂にゆったりと浸かり、思い切り手足を延ばす。ドタバタの3日間の疲れが徐々に取れていくようだ。
10月13日
今日は我が家は下るだけ。寝坊したいところだがそうもいかない。朝食は5時半から、広い食堂に集まったのは10数名で少ない。若い頃、各地の山小屋でひしめき合ってご飯を食べ、寝た事が嘘のようだ。昨夜は個室のおかげで気兼ねなく眠れた。心配したМの腰痛、私の膝痛も今のところ大丈夫だ。
赤岳鉱泉に別れを告げ、美濃戸口に向かって歩き出す。前2回は雪景色だったが無積雪の歩きは初めて、楽しみだ。沢沿いの道を右岸左岸と渡り返しながら下って行く。早朝の板橋は凍っているようで怖い。こんな早い時間から次々と現れる登山者とすれ違う。ヘルメットを被った完全装備組、小学生の遠足?の軽装組・・・様々なスタイルに人それぞれの登り方を思う。
美濃戸口まで下り美濃戸でお願いしていたタクシーに乗り込む。渋御殿湯に向かう道中、人当たりの良い運転手さんから「北アルプスが見えますよ」と声がかかる。目線の先には穂高、キレット、槍が青空の中にくっきりと並んでいる。「ここまで綺麗に見えるのも珍しいですよ。良かったですね」の言葉に嬉しくなる。出だしの大ミスのショックで、どことなくテンションが上がらなかった今回の山旅、慰めるように最後を締めくくって貰った。いろいろ気遣ってくださった、黒百合ヒュッテ、硫黄岳山荘、赤岳鉱泉への感謝の気持ちを忘れずに《もう一度原点に立ち返り、真摯に山に向き合う事》と改めて強く誓った八ヶ岳の山旅だった。
( ← 八ヶ岳縦走(前編 天狗岳~硫黄岳) )
text | 斉藤(滋) |
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photo | 斉藤(宗) 斉藤(滋) |